2018年4月17日、厚生労働省がデュピルマブ(販売名:デュピクセント皮下注 300 ㎎シリンジ)の最適使用推進ガイドラインを発表しました。
この機会に、デュピクセントについて現時点で思うことを記しておきたいと思います。
私が同ガイドラインの中で注目した記述は6. 6) です。
ステロイド外用薬等に不耐容の患者を除き、治療開始時にはステロイド外用薬等の抗炎症外用薬及び外用保湿薬と併用して用いること。
デュピクセントは、ステロイド外用薬等と併用して用いることとされています。
インタビューフォームにも、原則として抗炎症外用剤を併用し、保湿外用剤を継続使用する旨の記載があります。
これについては、落胆した患者が多かったのではないでしょうか。多くの患者は、ステロイドの副作用が嫌だから、新薬に期待しているのだと思います。
これでは新薬の魅力は大きく失われるものと思います。
併せて、デュピクセントの医薬品リスク管理計画書(RMP)を確認してみました。
こちらで注目したいのは、重要な潜在的リスクのひとつ「免疫原性」です。
一般的に、抗原が抗体の産生や細胞性免疫を誘導する性質を免疫原性と呼びます。バイオ医薬品は抗原として作用し、治療した患者さんで抗体の産生が誘導される場合があります。1)
デュピクセントは抗体医薬品であるため、投与された抗体に対する抗薬物抗体(Anti drug Antibodies: ADA)が体内で産生される場合があるのです。
なかでも、中和抗体が産生された場合、治療効果が低下するといわれます。
抗薬物抗体が誘導されても、有効性や安全性において問題とならない場合がありますが、中和抗体(活性を打ち消すタイプの抗体)が誘導されると治療効果が低下します。2)
そして、デュピクセントを投与した場合の抗薬物抗体(ADA)について、現時点では、次の試験結果が得られています。
16週間単独療法試験において、プラセボ群では約2%、本剤投与群で約5%にADA陽性反応が認められ、中和抗体が認められたのはプラセボ群では0.5%、本剤投与群では1.7%であった。
52週間投与試験において、プラセボ群では約3%、本剤投与群で約2%に、12週間を超えて持続する陽性反応が認められ、中和抗体が認められたのはプラセボ群では0.7%、本剤投与群では0.2%であった。
高抗体価(10,000超)のADAの発現例(発現頻度:全患者集団の0.1%未満)では、本剤の薬物動態及び有効性への影響が示唆された。加えて、高抗体価のADAに関連した血清病及び血清病様反応が認められた。3)
医薬品リスク管理計画書には、ADAがデュピクセントの有効性に影響する可能性があり、投与中止も考えられるとの記載があります。
このようなデュピクセントに付随するリスクは知っておいてよいかと思います。
さて、日本でもデュピクセントの処方が始まろうとしています。
薬価が高価であることは十分に躊躇する理由になるのですが、正直なところ、私は、仮に無料でデュピクセントを使用することができたとしても、使用しないと思います。
皮膚症状が永久に再燃しないところまで、完全に治す薬ではないと考えられるからです。
ガイドラインにも「症状が寛解し本剤投与を一時中止した患者のアトピー性皮膚炎の再燃に際し、患者の状態を総合的に勘案して本剤投与を再開する場合」とあるように、症状が再燃することは想定されています。
対症療法であるとすれば、人生100年時代といわれるなか、残りの何十年ものあいだ高額な費用を支払い続けねばなりません。
また、臨床試験結果や、口コミを目にする限り、どうやら患者次第で効き方が異なるようです。
さらに、10年単位での長期使用時にどんな副作用があるかわかりませんし、報告されていない未知の副作用があるかもしれません。
大金を投入したとしても、必ずしも期待したベネフィットが得られるとは限らず、得体の知れないリスクを抱え込むのは割に合わない気がします。
なおかつ、忘れてならないのはステロイドとの併用原則です。処方医師がその条件が必須だといえば、私は絶対に使用しません。
私は、ステロイド外用薬で依存とリバウンドを経験したために、免疫システムを抑制することが本当に恐ろしいのです。
そのため、病院や薬ばかりに頼らず、温泉の力を借りたり、ひたすら運動をしてきました。
その甲斐あって、ステロイド外用薬は10年以上まったく使用していませんし、保湿外用剤も昨年はまったく使用していません。
薬なしでも、何とかなるのです。今のところ、デュピクセントを必要とするほどには、追い込まれていないのです。
それならば、当面は、運動と温泉で乗り切る生活をしていた方が安心です。医療費もかかりません。
もし、デュピクセントを使用した人たちが、みな一様に回復して、10年後も、何ら副作用なく、快適な人生を過ごしていたなら、使用を検討すると思います。
ところで、イギリスでは、デュピクセントについて興味深い動きがあります。
イギリスの国立医療技術評価機構(NICE)がイギリスにおけるデュピルマブ使用についてのガイダンスを作成中で、評価委員会が設けられています。
そのNICEの文書によると、デュピルマブは、全身療法が適切である場合は、中等症から重症のアトピー性皮膚炎の治療には推奨されないとしています 4) 。
内服ステロイドやシクロスポリンなどの全身療法が有効でない場合に、ステロイド等外用治療との併用によるデュピルマブが使用されるとのことです。
なぜなら、費用対効果が妥当ではないから、というのが主な理由のようです。費用が公的負担の許容範囲を超えているのでしょう。
ただし、当該文書の内容は先月時点のもので、最終的なガイダンスは今後変更される可能性があります。
日本も、デュピクセントの投与対象となる患者に条件を設けるなど、慎重な姿勢をとっています。
有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積されるまでの間、当該医薬品の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに、副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件を満たす医療機関で使用することが重要である。
このガイドラインにある文言通り、私も、有効性と安全性に関する情報が十分に蓄積されるのを待ちたいと思います。
(当サイトはいかなる治療法をも推奨するものではありません。また、当サイトに掲載されている情報を利用することにより発生したいかなる損害についても責任を負うものではありません。)
1. | ↑ | バイオ医薬品と免疫原性 | 国立医薬品食品衛生研究所生物薬品部 |
2. | ↑ | 石井明子, 若林進監修「これだけは知っておきたいバイオ医薬品」一般社団法人くすりの適正使用協議会 |
3. | ↑ | 「デュピクセント皮下注300mgシリンジに係る医薬品リスク管理計画書」サノフィ株式会社 |
4. | ↑ | https://www.nice.org.uk/guidance/indevelopment/gid-ta10218/documents |
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